最近はカメラが好きで

 10年前のトイカメラブームに乗り、シャッターを押すだけのフィルムトイカメラと、まるで5年前の携帯電話で写真を撮ったように映るキーホルダーサイズのトイデジを持っていた。なので、去年の夏休職した際に「もう一度カメラを持ちたい」と思うのも自然なことだと思った。

 休職したのは、40半ばのコロコロに太ったお局に怒鳴られ続けたのと、職場の人間関係に混乱したのもある。とにかく疲れていた私は実家に戻り、一人暮らししていたマンションを掃除し、引き払い、一段落した。そこでもう一度思ったのだ、「カメラをやりたい」と。

 私は無趣味というか、色んなことに興味が薄い方だと思う。デザイナーとして働いてきたが、デザインも「三度の飯より」好きってわけではない。それよりお局に怒鳴られるのが嫌で(お局体質の人に極度に嫌われる性質をしている。つまり、テキパキ仕事ができないタイプだ)やめた。絵も、中学生からやってはきたが、もっと上手い友達が近くにいて、やる気をなくした。でもとりあえず、グラフィック周辺がほんのり好きではあるので、もう一度手は出してみようと思った。

 フィルムの写真の、あの何とも言えない懐かしさが好きだったから、メルカリで一応の一眼レフカメラ一式を6000円で購入。アマゾンでフィルムを買って、説明書を読みながら撮りたいものを撮っていく。

 

 フィルムカメラは面白い。デジタルと違うのは、写真を撮ること自体に制約があることだ。シャッター一回の重さが違う。おっと思って、ファインダーを覗いてからやめるのも日常茶飯事。それが面白い。手軽に撮りたければスマホでパッと撮ればいい。フィルムでわざわざ撮りたいものだけ撮ればいい。そうして24枚すべて撮ると、私のNikon Uという名前のカメラは自動でフィルムを巻き取ってくれて、それを取り出して現像しにいく。

 フィルムを写真屋のカウンターに持って行き、「同時プリント、L版で」とオーダーして、半日待たなければいけない。その間のワクワクがいい。失敗しているかもしれない不安と、もしかしたら奇跡の一枚が撮れてるかもしれないという期待と。写真屋から帰る途中で、待ちきれなくて写真を見て、ああ失敗した、ぶれてるなとか、これは上手いこといったなとか一喜一憂するひとときが幸せでいい。

 

 再就職した先のおじさんが、フィルムをやってるならデジタルもぜひやりなさいと言ってデジタル一眼レフをくれた。

 デジタルも面白かった。フィルムでできないことをデジタルは当然のようにやってくれる。失敗が怖くてISO感度100のフィルムで、オートに任せっきりで撮っていたのに、デジイチを持ってからは積極的に数値をいじるのが楽しくなった。大体、ISO3600ってなんなんだ。そんな高感度フィルムはない。室内だろうが薄暗かろうがどんどん撮れる。こりゃ楽しい。

 写真はISO、F値シャッタースピードを色々設定して撮ることで、自分好みの写真を撮ることができる。そのへんの詳しいことは、調べて理解するより実際にカメラをいじってみたほうが覚えられた。「いい写真」ってなんだろう、と考えたこともあったが、それより撮りたいものを撮っていたい。今は外出できないので、家の猫、そのへんの植物や看板、風景を撮っているが、私が今撮りたいのは人物だ。モデルなんか雇えれば最高だが、それはちょっとハードルが高い。コネもツテもないし。でも、好きな写真家はみんなモデルを撮っている。それもそこにカメラなんかないみたいに自然に。

 

 カメラも趣味だ。絵も未だ趣味だけれど、最近クロッキーすら久しい。デザインも仕事でやってきたが、これも趣味か。趣味ぐらいに思ってた方が楽かもしれない。デザイナーなんて肩書きを付けられるほど偉くないし、そもそも今、DTPデザイナー(紙もののデザイナーのことだ)の求人なんてほとんどない。このままwebに飲まれて、DTPなんて消えてなくなっちゃうかもしれない。それは寂しいけど、時代に飲まれるしかない。非力なひとりぼっちだから。

 また転職しようと思っている。でも仕事なんて、お金がもらえるだけの作業で、もう仕事とか趣味とか、肩書きとかどうでもいいじゃないか、たぶん。堅苦しい考えはやめることにした。

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愛用のフィルムカメラ。2000年当時、新米パパママが子供を撮るためにちょっといいカメラを、みたいな位置のものらしい