今更なんて言わないで「ロッキー」を見てくれ

 ロッキーと言ったら生卵を飲んで「エイドリア〜〜〜〜〜ン!!」と叫んでGonna fly now(あるいはEye of the tigerが流れるのは誰でも知っている。けどあまりに有名すぎて見なくても分かるなんて言わないで「ロッキー」を見てほしい。

 私はロッキーは恋愛映画だと思っている。ロッキー2が一番好きで、2こそ恋愛映画だと思う。ロッキーは思ったほどむさくて暑苦しい映画ではない。まあ、ムキムキの男二人が浜辺で抱き合うシーンはあるが……それがすべてではない。

 なお、「見てくれ」といいながらネタバレ全開である。wikipediaの記事のあらすじ欄にも結末まできちんと書かれている(あれ書いたの誰だよ、本当は好きじゃないだろロッキーのこと)ので、今から見るという方は注意してほしい。

 

 

 ロッキーシリーズについて書く前に整理しておきたい。シリーズが長期化したため、かなり作風が違う。

正直ここまでシリーズ化しているとかなり入り辛いと思う。思うが、「クリード」からロッキーに入るのもアリだ。よっぽどわからずやの店員がいないかぎりどこのビデオ屋でもレンタルできるから、一日あれば1からファイナルまでは見ることができるだろう。外出しにくい今見ちゃえばいい。

  

  まだ「ロッキー」が低予算映画だった頃の作品だ。売れていない頃のスタローンがモハメド・アリの試合を見て脚本を書き上げた逸話はあまりにも有名。

 「ロッキー」は一見とてもありふれた王道中の王道のシナリオで構成されている。だがそれが陳腐に見えないのは、ストーリー中の小さなエピソード群に「貧乏という名のやるせなさ」が見え隠れするから。妹をロッキーと付き合わせたくも自分から離れていくのが嫌で子供のように怒り狂うポーリー(ファイナルまでくるとポーリーのセリフにも泣けてくるから良い)。奥手でロッキーと不器用なデートをするエイドリアン。アポロとの試合が決まったとたん顔色を変えるミッキーとロッキーのぶつかり合いなど、スタローン監督「パラダイス・アレイ」にも共通する、治安の悪さと金のないことからの無気力感がよく描かれている。この映画がアカデミー賞を取ったのもうなずけるだろう。

 「ロッキー」で一躍人気者となったロッキーは、「2」にて賞金を手にし、そのはした金で貧乏人がいかにも考えそうな「高い買い物」をして回る。CMにも出演してみるが、田舎者で学校にも行かなかったロッキーはモチャモチャした発音で即クビになる。この辺、「ロッキー」によってスターとなったスタローン本人を揶揄するような脚本(ロッキーシリーズの脚本はすべてスタローン本人だ)で面白い。スタローンも言語障害で苦しんだ過去がある。特徴的な口元がその証拠だ。

 エイドリアンとのスケート場でのデート、虎の前でのプロポーズやベッドの上での音読など、なんというか、ロッキーは母性をくすぐるキャラクターでたまらない。私は「2」が一番好きだ。ロマンチックで。

 

 「3」にもなると、ロッキーは本格的にリング上のスターとしてマットの上を駆けることになる。金持ちの生活に慣れずにかんしゃくを起こすポーリーと、ブランドもののスーツを着こなすロッキーとの対比が面白い。「2」までの宿敵であったアポロと共闘し、若いボクサー達と戦っていく熱血期のロッキーはファンも多い。あしたのジョーで例えると、セコンドに力石を携えたジョーがホセ・メンドーサに立ち向かうようなものだ(ボクシングものをボクシングもので例えるのはよしたほうがいい)。

 「1」「2」までの仲間を亡くしながら、ロッキーはアメリカの代表とでも言うかのように、ソ連の象徴のような機械的ボクサー・ドラゴと戦う。スタローンの政治的主張も盛り込まれた「4」は、その後「クリード2」へと受け継がれていく。

 

 「ロッキー5」……正直、一度しか見たことがないのでコメントしようがないのだが……。「5」はファンの私からしても見ていて辛いのだ。年を取ってボクサーを引退するロッキー。会計士のせいで破産したロッキーはもとの貧乏暮らしに戻ってしまう。セコンド…というかトレーナーとして再帰しようとするも、なんだかんだ揉めて弟子を喧嘩でノックアウトして一応のハッピーエンド……。弟子をやりこめることでハッピーエンドとしてしまう、この頃バブルも弾けて俳優として低迷していたスタローン本人を想うとやるせない気持ちになる。

 スタローン本人と共に見事に「ザ・ファイナル」で返り咲いたロッキー。無名映画だがこの頃の「リベンジ・マッチ」もまた名作だ。

 老いぼれたロッキーはエイドリアンを亡くし、昔の思い出にばかり浸っている。レストランで客に昔話を披露して回るロッキーの姿が悲しく痛々しい。ポーリーに老いぼれと貶されながらも、またしてもリングに上がるロッキーの姿と、スタローン本人の姿がダブって見えて感涙ものである。この「ザ・ファイナル」で、スタローン脚本のロッキーシリーズはひとまず幕を下ろすことになる。

 

  さて、「クリード」と言えば聞き覚えがある若い方も多いと思う。ロッキーがさらに老いてセコンドとなり、若いアポロの息子を鍛え直すというストーリーだ。これだけでかなり熱いものがこみ上げるが、「クリード2」では「4」のドラゴの息子と戦うことになるから感情がこみ上げすぎて吐きそうになるレベル。今までロッキーシリーズを追いかけてきたファンだけでなく、クリード単体で見てもしみじみと「人生」を感じさせるストーリーには脱帽する。「ザ・ファイナル」でロッキーは終わりだと頑だったスタローンを説得させた監督はロッキーシリーズの大ファンだという。

 「クリード2」は劇場で見ることができたが、クライマックスシーンで流れるGonna fly nowには思わず涙。敵として戦うドラゴ親子の心情の変化にも注目したい。いいオヤジキャラしてんだ、ラングレン……。

 

 

 映画をおすすめするのはかなり難しいんじゃないだろうか。ストーリーの羅列になっても面白くないし、かといって私の感想ばっかり書いてもな、という感じである。難しい。

 まあでも、ロッキーなんて黙ってても名作なもんを今更、と言わず、名作だからこそ、どのへんが名作なのかちゃんと書いておくべきだと思ったのだ。テレビで一挙放送などやってくれたら、Twitterで実況しつつ「ここがいい!」「ここが泣ける!」など解説するのに(フォロワーからものすごく嫌がられるだろう)。最近はそういうのもないから、過去の名作を見る若者も随分減ったように思う。

 ロッキーとはスタローン本人のようで本人でない、不思議なキャラクターだ。スタローンの生活から脚本が生まれ、ロッキーの活躍がスタローンの活躍になる。「クリード」にてスタローンがアカデミー賞助演男優賞にノミネートした日のことを覚えているだろうか?誰もがあの時スタローンをロッキーとダブらせて熱く応援ツイートをしていた。残念ながら受賞には至らなかったが、それもなぜかロッキーらしく、微笑ましい。もちろん悔しかったが。アメリカはもちろん海外でも広く愛されるキャラクターであることを実感したのは私だけではないはずだ。

 

 ロッキーだけでなく、ランボー(ラストブラッドが今年公開だ)やコップランドなんかについても語りたいが、今度にしておく。タイピングしすぎて腕がだるくなってきた。